猫ひっかき病について
「猫ひっかき病」はBartonella hensence (バルトネラ・ヘンセン)が病原体であり、年間の患者数は約10,000人とも推定される重要な人獣共通感染症の1つです。
バルトネラ・ヘンセンは猫の赤血球内に寄生するグラム陰性の多型性小桿菌で、発育にはヘミンなども赤血球成分を必要とします。
感染経路については、猫から猫への伝播経路はネコノミが関与しています。猫の血を吸ったノミの体内でB.hensenceが増殖し、猫の皮膚上に糞便として排泄されます。それが猫のグルーミングによって歯や爪に付着し、その猫に人が嚙まれたりひっかかれたりすることで、創傷感染が起こります。
動物の症状については、B.hensenceに感染した猫は臨床症状を示さないが、感染して1~2週間で菌血症を起こし、2~3か月間保菌状態となる。自然感染した猫では1~2年間持続した例が報告されています。
患者は世界各地でみられ若齢者に多発し、日本では20歳以下に多いとされています。猫ひっかき病は秋から夏にかけて多発しており、その理由として、
①夏のネコノミの繁殖期にB.henselaeに感染した猫が増加し、寒い時期になると猫は室内にいることが多くなる。
②春から夏にかけて生まれた子猫を秋口に飼い始めることが多いため、人がこの時期に受傷する機会が増える。
などが挙げられています。猫の保菌率は特に南の地方や都市部の猫、3歳以下の若い猫、室外飼育やネコノミが寄生している猫で高いことが示されています。
人への臨床症状は、猫の受傷から3~10日目に受傷部位に痂疲を伴う、赤い隆起状の病変が形成します。この病変は中に膿を含むこともあり、丘疹から水泡に、一部では潰瘍に発展する場合も挙げられています。また、以上の初期病変から1~2週間後にリンパ節の腫脹の症状が出てきます。リンパ節の腫脹は疼痛を伴い、数週から数か月間持続するとされています。多くの症例で発熱、悪寒、倦怠、食欲不振、頭痛等が現れるが、一般的に自然に治癒していきます。
また、一般的な猫ひっかき病と異なり、非定型的な場合は患者の5~10%でみられています。その症状として、耳周囲のリンパ節炎や眼球運動障害などがみられるパリノー症候群、脳炎、心内膜炎、肉芽腫性肝炎等が挙げられています。バルトネラ・ヘンセンによる心内膜炎は、特に猫との接触があった心臓弁膜症患者に多く見られる。脳炎は猫ひっかき病の最も重篤な症状の一つであり、リンパ節炎を発症してから2~6週間後に発症した例もあります。
猫ひっかき病の診断については、猫(特に幼弱猫)との接触や創傷部位の有無、局所リンパ節の腫脹の確認、リンパ節が腫脹する疾病の、鼠径リンパ肉芽腫、化膿性炎、非定型型抗酸菌症、結核、ブルセラ症、野兎病などとの類症鑑別が必要とされています。
血清診断については、バルトネラ・ヘンセン菌体抗原を用いた間接蛍光抗体法が用いられています。患者の血液、リンパ節などの生検材料から菌を分離することは難しく、培養から分離まで時間がかかるため、迅速に結果の出るPCR法によるバルトネラ・ヘンセンの遺伝子検出法が診断上有用とされている。
予防としては、猫との接触や受傷ですぐに発症することはないため、定期的な爪切りや猫、特に子猫との接触後の手指の洗浄や、による外傷の消毒、ネコノミの駆除などの一般的な衛生対策で対応する必要があります。猫を飼育する場合は、ノミ対策やバルトネラ・ヘンセン菌血症が陰性であることを考慮する必要があります。また、免疫力不全状態にある人は、猫との接触を避けるなどのことで予防していく必要があります。